蜘蛛

私は雨が嫌いだ。
この体中にびっしりと生えた毛が濡れるとひどく動きづらいからだけじゃない。

水面は私の意思など無関係にこの醜い姿を私に見せつける。
透けるように白かった手足は土色に節くれだち
海のように深く青く輝いた瞳はもう茶色くにごり額にの6つもぎらぎらと鈍く光る

私はアラクネ

かつては女神にさえ勝るといわれた機織の腕を
今は卑しくも餌をとるために無心につむいでいる

…はて

私はアラ…クネ…あ…ら…くね…Ara…chnē?…ア…ら…苦…Ne…?


本当にそうなのだろうか?
蜘蛛が一瞬みた夢なのではないだろうか…。

ただ…

ただ…あれがほしいの…。
かつて私がまとっていた美しい衣。
キラキラ輝き、ゆらゆら揺れる
あれがほしい。

私にはないのに…

なぜ、あれらはかくも美しく、かくも輝く…

あぁ 美しい頃に戻りたい
あぁ 美しい衣でこの身を隠したい


私の紡いだ糸に囚われた美しい蝶
無心に貪った

ただ、ただ…無心に…

でもあの頃には戻らない
衣も紡げない
だた空腹が満たされるだけ


何度も
何度も…何度も…

何匹も
何匹も…何匹も…何匹も…何匹も…

埋まることのない欲求はいつしか満たされる空腹を嫌悪へと変えていく



私は散らばった羽を紡いだ糸でわが身へ巻きつけた
決して決してはがれぬように

わが身を隠した私が我欲に任せて貪った美しい亡骸

それは私の自由を奪い地面へを導いた

地面までの一瞬私は短い夢を見た
アラクネという少女の幸福な夢だった





雨上がりの水たまり
蝶の羽と一緒に糸に絡んだ蜘蛛が一匹
くるり、くるりと浮かんでた



くるり

くるり

きらり

きらり

くるり

 

 

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アラクネはギリシャ神話で『私は機織も女神アテナよりも腕は上だわ!』とのたまった為に蜘蛛に姿を変えられて一生糸を紡ぐことになった女の子のお話です。
結構ギリシャ神話の神様は大人気ない。

ギリシャ神話は『神話』なのでその後のアラクネについては一切触れてないのですがきっと苦しかったろうにと思ったり。
きっと狂ってしまっただろうに。

優しい神様は『アラクネ』という『意思の存在』も無くしてくださったのかしら?


狂うほど苦しむならいっそ消えてしまいたいと思うのは我がままでしょうか…。

それも天罰なのでしょうか…。

 

 

過去の日記から転載してきました。

もとは夢で蜘蛛になって妖精を食べちゃう夢を見たから。

気持ち悪い夢でした。

何だか変身願望の強い夢なんですって。

カニバリズムとかも変身願望の一つなんですって…。

できれば一緒にしないでいただきたい(笑)