ピノキオの見る夢1

1.エイミとアイミ

 

私の名前はエイミ。

年は5歳になったばかり。

私はパパとママとアイミという少女の双子の妹がいる。

私たちはふたりともまだ、保育園には行っていない。

でも、来年になったら保育園に行かせてくれるとパパは約束した。

保育園に行かない代わりに私とアイミはいつも一緒にいる。

私たちはとっても仲良しなのだ。

いつも一緒にいる双子でも、来ているお洋服が一緒でも私とアイミを間違う人はいない。

なぜなら私とアイミは姿も性格も全然に似ていないからだ。

私が茶がかったクセッ毛でのびのびになっているのに対して、アイミはまっすぐで耳下で切りそろえられた黒髪をしている。

私が直感的で、走り回ったり動くのが好きなのに対して、アイミはおっとりとしていて、本を読んだり絵を描いたりするのが好きだった。

TVで見た双子は鏡みたいにそっくりだったのに…。

 

「にらんせい」というらしい。

パパとママはだから似てなくて当然だというが本当は違う。

 

実は私はおにんぎょうなのだ…。

 

実はそのことを知ったのはごくごく最近で、ちょっと前、夜にママとパパが話しているのをこっそり聞いてしまったのだ。

私たちが眠る為にリビングを後にしてからパパとママは大事な話をよくする。

その日はたまたまトイレに起きてリビングに近づくと「あの子のお目つけ役として人形は役立ってるようだ。高い買い物だった価値はあったな。もっと明るく人見知りしなくなってくれれば申し分ないんだが…。」とパパはママにささやいていたのだ…。

私はアイミに比べればよく笑うし、人ともよく話す…。

思いがけず私は自分の しょうたい を知ってしまったのだ。

私はパパとママの子供じゃないんだ…。

アイミとも双子じゃないんだ…。

たしかに私の記憶は3歳を過ぎたあたりからの記憶しかないのにアイミはよく昔のことも覚えていた。

 

私はそれを聞いてしまって、ベットに潜ってしくしくと泣いてしまった。

ママに見つかって「どうしたの?」と聞かれたけどわたしは言えなかった。

なぜかとっても怖いくて聞けなかったのだ。

結局、怖い夢を見たといってその日はアイミと一緒にママに抱かれて眠った。

私はもうおとななのにママに抱っこしてもらって寝るのが好きだった。

でも、それももう終わりにしなければならない。

だって私は…。

 

 

決して思い込みじゃないんだよ?

だってにんぎょうには心当たりがあるのだもの。

きっとママに連れられて毎月行くおにんぎょうやさんから私は買われてきたんだ…。

ママは月に一度、必ず、かわいいおにんぎょうのあるパパのお友達のお店に連れて行ってくれた。

でも、あのおにんぎょうやさんに行くといつも眠くなって寝てしまう。

きっとそれに ひみつ があるんだ…。

私はそんな うたがい を持つようになっていた。

 

 

うちにはさちえさんというおばさんが毎日家に来てくれる。

いつも留守がちのパパとママの代わりにいつも一緒にいてくれるさちえさんが私とアイミは好きだった。

さちえさんは私たちにご飯を作ってくれたり、毎日ではないがおもちゃを買ってきてくれたりした。

今日は絵本だった。

この前が私の欲しがっていた水色のボールだったから今日はアイミの好きなもの。

こうかん こうかん じゃないと ふこうへい なんだそうだ…。

 

さちえさんがお掃除が終わったら読んでくれると言ったが

私は「5歳になったから私たちだけでも読める!」と意地を張った。

実際読んでいたのはアイミがほとんどだった気もするけど…。

 

タイトルは『ピノキオ』。

表紙には男の子しかいなくて、お姫様が出てこないと知ってがっかりした。

でも、アイミはたどたどしいけどゆっくりと私の顔を見ながら読んでくれた。

おじいさんに作られたにんぎょうのピノキオが冒険をしてぶるーふぇありに人間にしてもらうというお話だった。

結局私はピノキオの冒険にびっくりしたり、悲しくなったりしながら楽しんでしまう。

私もアイミも読み終わる頃には人間になるにんぎょうのおはなしに興奮気味になってしまった。

アイミはピノキオの相棒のコオロギが気にいったらしい。

出てくるシーンを食い入るように見ている。

私はお姫様が出てこないことも忘れてピノキオの話の虜になっていた。

にんぎょうが人間になれる…。

ぶるーふぁありに会えれば私は人間になれる。

そしたらピノキオみたいにおじいさんの本当の子供になるんだ。

パパとママの子供になって、アイミのきょうだいになれるんだ…。

目の前に星が降ったような感覚に私はアイミにもう一度ピノキオの話を読むようにせがんだ。

ぶるーふぇありはどこに行けば会えるのかしら?

…人形を人間にしちゃうくらいだからおにんぎょうやさんなら知ってるのかしら…。

次におにんぎょうやさんに行った時あのお兄さんに聞けば合わせてはくれなくとも居場所ぐらいは教えてくれるかもしれない…。

うれしくなって私がくるくる踊るとアイミが「うふふふ」とわらって踊りに合わせて鼻歌を歌ってくれた。

私はいつもアイミの歌うこの鼻歌が好きだった。

アイミと私は一緒に歌いながら一緒に踊った。

私たちが仲良しであることにおにんぎょうであることは関係がないのだ。

 

私はその日が心待ちでたまらなくドキドキした。