ふたり

君と喧嘩をした。

ささいな、ささいな理由の喧嘩。

たしか・・・出だしはどっちが今日のお昼を支払うか・・・だったかな・・・

・・・そうそう、そうだった。

結局途中からは関係のない言い争いになっていた気がする。

『たまにはあたしが払いたい』

それも君は『わがまま』と呼んだ。

君は『男の顔を立てろよ』なんていうけどさ

じゃ、『女の心使い』は無視されちゃうの?

君のついたため息に私は少しいらついた。

手に伝わる君の腕のぬくもりを放り出して私は人込みを走りだした。

 

・・・別に君の気持ちがわからないわけじゃない。

君が私を思う気持ち・・・わかってる。

でも、背負われてる自分はひどく重荷のようで息苦しいって思っちゃうの。

せっかく「ふたり」なんだもん

痛みを半分にしたい

時には君の荷物も持ってあげたいっていうのがわがままなの?

『ふたり』を満喫しちゃけないの?

 

ふたりだから

君の腕のぬくもりを感じるのに

「ごはんをおいしいね」ってわかちあえるのに

喧嘩だってできるのに

君のいない右手をさみしいと感じるのに

 

背負われてたら出来る影はきっとひとつで

並んで歩く凸凹の影を見ることなんてできないもの。

いつもみたいに

君の左隣に右手をつないで並んで歩きたいの

心も

からだも。

いけないこと?

 

かけよる君が

私を後ろから包む

そっと髪にふれる君の唇は

優しく私をダメにする

 

些細な喧嘩なんてどうでもよくなる

結局君の言うとおり

『私のわがまま』なんだよね

「一緒にいれればいい」

君の言葉に私は帰ってしまう

 

君の顔を見ないまま

私はそっと後ろ手にシャツの裾をつかむ

素直じゃない私の精一杯のごめんなさい

君はふふっと笑う

『次のランチはお前の番。それでいいだろ?』

全部を言わなくても

私の全部を見透かすような君に

自分の子供っぽさを見せつけられる

ずるいなぁ・・・

 

温かな君の声のぬくもりが吐息のかかる私の右耳を震わせる

「お前と一緒だといいことは全てが倍になるから

お前と一緒だと嫌なことは全部半分になるから

ケンカなんかで離れていくなよ」

 

ふたりだとすべて倍になるから

楽しいこと

おいしいこと

嬉しいこと

全てが倍になるから

ひとりよりも『ふたり』のほうがいい

ふたりだと全てが半分になるから

悲しいことも

頭にくることも

寂しいことも

全てが半分になるから

ひとりよりも『ふたり』のほうがいい

 

 

ひとりよりも『ふたり』のほうがいい

それは私の口癖

君も私の言葉に帰るの?

私は振り返って君の肩に頬を預ける

君の肩越しにみえる凸凹の影がひとつに重なる

背負われていなくても影は一つになるんだね

寄り添ってぴたりとくっついていたってひとつになるものね

だったら私はこっちの方がいい

ずっといい

 

こうして歩み寄れればきっとずーと影は1つのままだよね

 

大勢でいればもっとたくさんのぬくもりを感じるかもしれないけど

大勢よりもふたりの方がいいと思うんだ

だって大勢だと楽しいけどちょっと煩わしい

大勢だと寂しくないけどちょっとめんどくさい

ふたりだと分かち合うのも結構簡単だと思うし

影だってこうしてれば簡単に重なる

 

「ひとりよりも『ふたり』のほうがいいものね」

君の言葉に私がお決まりの口癖をつづけた

 

FIN

 

この短編は前HPで掲載しました「ふたり」の内容を一部増筆・改変して掲載しております。